:本日の一冊:センゴク 10巻

センゴク(10) (ヤンマガKCスペシャル)

センゴク(10) (ヤンマガKCスペシャル)

一般的に言われている史実を本当に正しいかどうか、信長公記などの歴史書の記述を元に検証を行って、再検証の結果このようなドラマがあったのではないかと魅力的に書き出してくれる良作品シリーズ。
今回は、三方が原合戦の決着。圧倒的な戦力差の中、武田軍の挑発に乗って徳川軍が三方が原に誘き出され、大惨敗するという合戦結果。そして、織田家から派遣されていた平手汎秀は戦死し、佐久間信盛はろくに戦いもせずに逃げ帰る、というのが通説。
それに対して、徳川家の惨敗は変わらないのだけど、佐久間隊の奮闘を想像力豊かに描き切って、かつ信玄の病状悪化ということで、合戦には確かに負けたが勝負には勝ったという魅せ方をしていてすごく面白い。この合戦の勝ち負けの判断基準は、ただ一つ 徳川家康の首。無事逃げ切ったわけで、徳川&織田勢の勝ちと言っても差し支えない、読み応えがあった。
特に、“退き佐久間”として既に悪名が諸国に知れ渡っていたのか、そのくだりも出てくるんだけど、逆にその美意識が描けていたよな。先駆けとして仙石の勇猛さもそうだし、初陣?ながら仙石に触発された(いやあれは矢の痛さでキレタのか?(笑))玄蕃こと佐久間盛政も頑張りも凄い、その二人の意気込みを見極めて自分のポリシーの“逃げ”を柔軟に転換し、攻めに転ずる佐久間信盛の采配の合致の演出がうまいな。最後には武田全軍のタゲを佐久間隊が集めまくってしまい(大苦笑)、こりゃあ全滅かなぁというところで、あの展開はうまい!思わず読者の私も胸を撫で下ろすぐらいの引き込み感があったな:-)
あと、佐久間信盛は重臣といえ、あの猛烈な主君の下での管理職の悲哀も出ていて、将来放逐される運命を感じさせる一節も出ていたな(-_-; 下記は放逐される理由を書いた折檻状の一部。今回の三方が原のことも痛烈に指摘されていて、実際は今回のコミックのようでもあっても、なかなか弁解できないことがあるな(^_^; 個人的には今風に言うと、上司から非常に難易度の高い無理難題な件名を押し付けられて、大幅な赤字は出さなかったけど黒字も出せないギリギリのいわゆる負けない戦いをした中間管理職って感じに思えるなぁ。とはいえ、今回は“退き佐久間”として奇跡の誉れ、我らの大勝利ぞと、自信に満ちて語る信盛の笑顔が、今回の全て物語っていると思えるな:-) このコミックを読み終わったあとに、下記の折檻状の一文を読むと、一兵も失わずに戻ったことが誉れにも思えてくるのが不思議だ(^-^)
司馬遼太郎さんの作品を読んでいるとよく思うことがある。戦国時代に生きる武士として、最終的に栄華を得ることが目的だけど、それを掴めるのは一部のみ。そうではなくたとえ自分一代で終わろうとも、自分が信じた美意識での活躍や言動を後世に伝えることができた者の方が武士として本懐ではないだろうか。

信長による19ヶ条の折檻状のうちより引用
一、信長の生涯の内、勝利を失ったのは先年三方が原へ援軍を使わした時で、勝ち負けの習いはあるのは仕方ない。 しかし、家康のこともあり、おくれをとったとしても兄弟・身内やしかるべき譜代衆が討死でもしていればその甲斐あって運良く戦死を免れたと人々も不審には思わなかっただろうに、一人も死者をだしていない。 あまつさえ、もう一人の援軍の将・平手汎秀を見殺しにして平然とした顔をしていることを以てしても、その思慮無きこと紛れもない。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%BD%90%E4%B9%85%E9%96%93%E4%BF%A1%E7%9B%9Bより