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のぼうの城

のぼうの城

戦国時代の秀吉の北条攻めの一幕の話。その北条方の忍城を巡る、城を守る成田家と、豊臣勢の石田三成の合戦を描いた作品。
先日、モーニング連載中の“へうげもの”の話の中で、忍城の水攻めが失敗したくだりが出ていたので、そういえば忍城の城方の小説があれば面白い話ができるはずなのにな?と思っていた。 そうしたら、この作品がダイレクトに取り上げていたため、喜んで読んでみた(^-^)

なかなか面白かった。大勢いる戦国時代の人物もうまくピックアップして、人柄などを肉付けできていて、攻守双方の内情を細かに描けているのは読みやすく楽しめた。それに、かなり史実に近く書かれていて、NHK大河ドラマのように演出のため大きく歴史捻じ曲げのようなことがないのが好感が持てるかな。合間合間に創作を入れるのは歴史小説の範囲内だし(^^)
ただ、私個人的には、話し口調が前編現代語に近いので違和感が結構あったし、歴史小説に慣れてない方用に現在場所や歴史背景の注釈がうるさい程もあったし、エンターテイメント色が強くちょっと読みにくくも思えたかな。まぁ、そこは差っ引いても十分楽しめる作品に思えた。もちろん、それも歴史小説を始めて読む方向けに敷居を低くしたと思えば納得できるし、ドラマにしやすい話だと思った。後者の方は当たり前で、脚本家だそうだからみたいだな(^^) あと映画化の話もあるみたいだな。

この作品の肝は、城方をまとめている武将が有能だったという結論ではなく、人を惹きつける魅力があったという解釈でまとめているのは新鮮かもしれない。普通一般的に、篭城戦では鬼謀や策略などで寡兵にて、攻め手の大軍を負かすというものが読み物としても面白い。例えば、楠木正成や真田父子などの篭城戦での天下の兵を受けるというのは戦国時代のファンとしては羨望に近いシチュエーションだと思う。この作品では、そんな戦略眼や采配の素晴らしさは一切描かれていない、それが面白い:-) 一つ筋を通すべきではないかという極めて普遍的な部分を突き通した所に、忍城の総大将となった成田長親のじんわりとした人柄の良さが生きてくるのだと思う。作品タイトルの“のぼうの城”の“のぼう”とは、“でくのぼう”のことで、作中では長親は、“のぼう様”と呼ばれている。農作業が大好きだけど不器用な長親は、田植えなどの失敗するので、農民たちに恐れられているw 農民たちが断っても、手伝った挙句失敗すると、本人を目の前にして“のぼう様”はだめだなぁと叱りつつも、憎めない成田家一門のお侍さんと思われている。この辺りが作品を活かすスパイス、いや隠し味になっているんだろうなぁ;-)

もう一方の主人公を挙げるとしたら、石田三成でしょうね:-) 史実では事務方だけでなく合戦での戦功が欲しいだけのために、功を焦って城を落とせなかっただけなんですが、この作品ではかなり茶目っけがありますね(^0^) 武士というものの理想はこうだから、やっぱこうじゃなきゃーね!みたいなところを敵に見出そうとして、遠回りな戦術をわざわざ選び実行した感じがお茶目w 基本真面目で、融通が利かない、人の諫言聞かないという部分は史実そのままですが、相手の気持ちをわかろうと努力する部分、…まぁ自分が欲している一部だけですが…は、この作品では色をつけてあって面白い人物解釈だなと(^^) 最後の部分で会談があるわけですが、成田家に残る文章のあの場面をあそこまで創作できたのは、石田三成というキャラが茶目っ気を持っていたからにも思えました:-)

そして、この作品で主に描かれている、農民が城主に厚い信頼を持つというのは、少し戦国時代を知っている人には出来過ぎた話だと疑問視してしまうかもしれないし、下手すれば鼻白んでしまうだろう。でも、実際に、北条氏はかなり厚い農民政策を実施していたし、成田家もそれに習った政策をしていたのだろうな。北条氏は、創始者の早雲のときから民衆を厚く保護する政策を取っていて、目安箱の設置や、士分や農民分け隔てない公平裁判なども既に領内で実施していたそうだ。年貢も、ほぼ天下統一しかけていた豊臣家が二公一民で、北条家は四公六民だったそうだ、凄い差だ(^_^;;;
また、領地の農民全員を城に入れて篭城というのは、当時としては特に変わった戦術ではなく全国各地であったそうです。作中では三成が篭城時に人が多いほど兵糧の減りが早いし、諍いも多く落としやすいとマイナス面しか書かれてないけど。逆に、毛利家の初期は領民を城に入れ篭城し、尼子氏の大軍に攻められつつも、逆に敗走せしめたこともあったそうです。このようなことからも、絵空事でもなくて、実際にあった話だと納得できると思うかな。

家老の三人もそれぞれ異なる性格付けをして、見せ場があるのは楽しめますね。ドラマか映画で映像しやすいような見せ方だなと思えたし:-) 農民も坂東武士の流れを組むとして、合戦時には剽悍さが表に出てきて、さすがだなと(^^) 花の慶次佐渡島での合戦の話の老人足軽の部分を思い出しました(^-^)
あと、個人的には姫武者として有名な、“甲斐姫”も作品中では出番も多くて満足したかな(^^) もしかして合戦場に出てくるのかな?と思ったが、基本史実ベースなので、伝説な姫の合戦働きは出てきませんでしたね;-)

それにしても、文章が何かしら若いなぁと思ったら、私とあんまり年齢が違わない作者なのね(^^; 会社経営者などが現役引退して歴史小説を書いたという作品も少なからずあるので、同様に作者はかなり年上だろうなとなんとなく想定して読んでいたら、あれれ?と思えて、作者略歴を最後に読んで納得(^^)